「きちんと水分をとりましょう!」「喉が乾いたと感じた時にはもう遅い!」という話をよく聞きますが... 「水分の過剰摂取」にも注意が必要です。「低ナトリウム血症」とか「水中毒」になってしまうかも!?
Exercise-Associated Hyponatremia in Endurance and Ultra-Endurance Performance-Aspects of Sex, Race Location, Ambient Temperature, Sports Discipline, and Length of Performance: A Narrative Review
Beat Knechtle, Daniela Chlíbková, Sousana Papadopoulou, Maria Mantzorou, Thomas Rosemann, Pantelis T Nikolaidis
August 2019Medicina (Kaunas, Lithuania) 55(9):537
こちらの論文によると...
低ナトリウム結症とは血漿ナトリウム濃度135mmol/L未満で定義され(大雑把には血液中のミネラル濃度が低すぎる)1980年代から注目されるようになったとのこと。
低ナトリウム血症になるとひどい場合は脳浮腫を来し、脳浮腫による症状として、頭痛、吐き気・嘔吐、めまい、倦怠感、痙攣、てんかん様発作、傾眠、昏睡などが引き起こされる。血漿ナトリウム濃度の低下が緩やかで脳浮腫を来さない場合は、倦怠感、見当識障害、混乱、食欲不振などが引き起こされる。
最近だと2007年にロンドンマラソン、2015年のフランクフルトでのトライアスロンで低ナトリウム血症による死者が出ているんだとか...。
実に皮肉なのはその歴史的な背景。
アメリカでは1981年以前は運動中に水分を摂取しないことが推奨され(日本でも同じかと)脱水症状になる人が多かったそうなんですが、それを受けてアメリカスポーツ医学会が運動中の水分摂取を推奨したところ低ナトリウム血症が急増したそうです。
そして、その背後には運動中の水分摂取を推奨する研究に対する飲料メーカーからの資金提供などがあったらしい...。
話が少し逸れましたが、低ナトリウム血症は緩やかに進行すると症状がはっきりと出ないことも多く、実は一般的に考えられているよりも発生頻度が高いそうです。
The incidence of exercise-associated hyponatremia in the London Marathon
Courtney Kipps, Sanjay Sharma, Dan Tunstall Pedoe
August 2009British Journal of Sports Medicine 45(1):14-9
こちらの研究は2003年のロンドンマラソンの参加者を対象に行われたもので、競技の前後で血液サンプルを採取し、血中ナトリウム濃度を測っています。
研究の対象となったのは88人のランナーですが、そのうちの11人(12.5%)が異常に低いナトリウム濃度を示し、自覚なく低ナトリウム血症を発症していたそうです。また、無自覚に低ナトリウム血症を発症していた人は水分補給が約1.6kmに1回、そうでない人は約3.2kmに1回と、低ナトリウム血症の人は水分を摂取する頻度や量が多かったんだとか。
ちなみにこの年のロンドンマラソンは4月13日に開催され、比較的冷え込んだコンディションだったとのこと。
低ナトリウム血症のランナーが多いことから、やはりみんな必要以上に水分を摂取してる、摂取しようと頑張っていることが分かります。幸いこの研究の対象者たちは具合が悪くなったりはしていないようですが、血中ナトリウム濃度の低下などからして本来のパフォーマンスは100%発揮できなかったんだろうと思います。
「喉が乾いた時にはもう遅い...」「脱水になったらいけないから...」あれこれ言われていますが、水の飲み過ぎにも注意が必要かもしれません。
ではどうすれば!? と言う方はこちらも参考になるかも → 2021-7-10(水分補給の研究:飲みたい時に飲んだので良いかも!?)
2021-12-18
この記事へのコメント