
しっかり水分を補給するだけでなく "塩分" もしっかり摂取しなければ!少し調べれば「水分だけでなく塩分もしっかり補給せよ!」という記事がたくさん出てくる。
しかし... よく考えると「塩分の摂取がパフォーマンスにどのような影響を与えるか」という情報がとても少ないような気がしたんです。
確かに体内の水分-ミネラル分バランスが崩れるのは良くないし、様々な記事でそう言うことが紹介されているのですが、塩分の不足や摂取が実際のパフォーマンスに与える影響ってどうなんでしょう!?
改めて調べてみると...
Sports Drinks Consumed During Exercise, Which Affect Thermoregulation and/or Athletic Performance in the Heat: A Review
Rachel Scrivin, Katherine Black
Strength and Conditioning Journal 40(5):p 108-119, October 2018.
こちらの研究では過去に行われた暑熱環境でのスポーツドリンク摂取が体温調節やパフォーマンスに与える影響を調べた研究結果をまとめ直し、改めてその効果などを検証しています。その中で電解質(ミネラル)の摂取について触れている項目があるのですが...
◎ そもそも「暑熱下での持久系運動中のナトリウム(すなわち塩分)摂取がパフォーマンスに与える効果や体温調節効果があるかを調査した研究は非常に少ない」のだそう。
◎ 6時間の自転車テストでナトリウム補給 vs 単に水摂取を比較した研究では、パフォーマンス、主観的なキツさ、心拍数、深部体温、血液中のナトリウム濃度に特に差が見られなかった。
◎ アイアンマントライアスロンにおける研究では、レース中1時間ごとに1〜4錠の塩タブレットを摂取したグループと、普段のレースと同様に食物と飲料を摂取したグループを比較。その結果、レース後の平均血清ナトリウム濃度に差はなく、パフォーマンスや体温調節の測定値にも差が認められなかった。
◎ 一方で、運動前の生理食塩水摂取の効果を検討した研究では、運動前の塩分補給は血漿(血液の液体成分)を増加させるため、温暖環境における長時間運動のパフォーマンスに好影響がある可能性が示唆されている。
...なんと、運動中に塩分を意識的に補給しても、そうでない場合とあまり差がないみたい。運動中の塩分摂取よりも運動前に塩分を摂って良好な水分-ミネラルバランスにしておくことの方が大切な可能性が示唆されています。
他にも
Modelling sodium requirements of athletes across a variety of exercise scenarios - Identifying when to test and target, or season to taste
Alan J McCubbin
European Journal of Sport Science, 13 Jun 2022, 23(6):992-1000
こちらの研究では、数学的なモデルを用いて様々な競技場面におけるナトリウム(塩分)の必要量などを計算。詳細は複雑なのでここでは省略しますが、発汗率や運動時間、体重や運動開始時の体内のナトリウム濃度、競技種目などなど、様々な状況におけるナトリウムの必要量を計算で求めている。
その結果...
◎ ナトリウムの必要量は、入れ替わった水分の量(失った水分と補給した水分の関係)と、汗の中のナトリウム量によって決まる。その他の影響はほぼない。
◎ サッカーやマラソン(エリート選手)の場合、競技中に塩分の補給は必要ない。
◎ 160kmのウルトラマラソンでは、1時間あたり1.5L以上の汗をかき、汗の中のナトリウム量が40mmol/L以上で、失った水分の90%以上を補給する場合に、失った量の50%の塩分を補給する必要がある。
...例えば、僕は今朝ランニング前にたまたま体重を測っていたんですが(初夏の暑い日)出発前の体重が68kg、帰ってきた時の体重が66.2kgでした。ちなみに山の中を2時間半で20km走りました。
途中で摂取したのは330mlの真水だけだったので、体重と摂取した水分量から計算すると失った水分は約2L。2時間半(2.5時間)で2Lの水分損失なので、1時間あたりだと0.8Lとなります。
先述の研究結果だと、1時間あたり1.5Lの汗をかき、汗の中のナトリウム濃度が〜とのことですが、今朝の自分のランニングと比べても1時間で1.5Lの汗をかくのは結構やばい。
さらに、その90%以上を補給すると言うことは1時間ごとに1.35Lの水分(500mlのペットボトル3本近く)を飲むと言うことでこれまた大変そう。
そんなことになって初めて塩分摂取が必要になるようですが、それでも必要な塩分量は失った量の半分で良いというから自分の読み間違いのような気がして自信がなくなってくる...。

では、どうすれば良いのか!?
まずは、一つ目の論文でも触れられていたのですが「過剰な水分摂取」に注意とのこと。(詳しくは https://sokka-sokka.seesaa.net/article/484860769.html )
水であろうがスポーツドリンクであろうが、水分補給をし過ぎれば低ナトリウム血症のリスクは増してしまいます。塩分補給について考える前に、まずは水分補給の仕方について考えてみると良いかも知れません。
そして、二つ目の論文によると、塩分補給は生理学的な必要量よりも「味の好み」で行ったので良いのでは!? とのこと。
塩っ辛いものを食べすぎると喉が渇き、水を飲み過ぎればトイレに行きたくなりますが、あれは体が水分-ミネラルバランスを保とうとしておこる自然な反応です。反対に水分を多く摂る時には塩っ辛いものが食べたくなる(お酒のおつまみが塩辛いものが多いのも関係あるかも)。
あれこれ難しいことを考えればキリがありませんが、体にはもともとミネラルバランスを保つための素晴らしい機能・感覚が備わっており、自分の食べたいもの・飲みたい物を好きなように飲み食いするのが良いそうです。
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あれこれ調べて辿り着いた結論は「自分の体の声に耳を澄ませ...」です。いきなりこれは難しいからある種のガイドラインに基づいた補給計画も有効かと思いますが、何をするにも、自分の感覚を研ぎ澄ませる作業は必要だろうと思います。
2023-5-29
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